信号待ちで、あるいは走っている最中に、突然エンジンが止まって、うんともすんとも言わなくなる。
もし、そんなことが街中の真ん中で起きたら、あなたは冷静に対処できる自信がありますか。
これは、岩手で庭師をしている私が、実際に体験した「恐ろしくも、ちょっと情けない」実話です。長年、剪定の仕事の相棒として使ってきた軽トラックが、よりによって一番暑い夏の日に、街中でぴたりと止まってしまったのです。しかも、その日は健康診断でバリウムを飲んだ日で……という、笑うに笑えない一日でした。
「そんなの、たまたま運が悪かっただけでしょう」と思うかもしれません。でも、これは古い車に乗っている方なら、誰にでも起こりうることなのです。
この記事では、私の失敗談を包み隠さずお話ししながら、街中や坂道でエンジンが止まってしまったときに、どう対処すればいいのかを、わかりやすく解説していきます。さらに、そもそもこうしたトラブルを防ぐには、日ごろから何に気をつけておけばいいのか、その備えについてもお伝えします。
私と同じ思いをする人が一人でも減るように、心を込めて書きました。どうか、心して読んでください。
車が動かない!古くなればただのガラクタ
まず、この記事で一番お伝えしたい結論からお話しします。車は、古くなると必ずどこかにガタが来ます。そして、そのトラブルは、たいてい一番困るタイミングでやってきます。
人間というのは、何か普通ではないことが起こらないと、なかなか動こうとしないものです。かくいう私も、その一人でした。
再三のリコール通知を無視し続けた私
実は、私の軽トラには、以前からメーカーからの「リコール」の通知が届いていました。
リコールとは、簡単に言えば「車に欠陥が見つかったので、無料で修理しますよ」というメーカーからのお知らせです。安全に関わる大事なお知らせなので、本来ならすぐに修理に出すべきものです。

どんなリコールだったかというと、エンジン部分に直結する、充電するための部品に不具合があって、それが原因でエンジンが止まることがある、というものでした。今思えば、まさに「エンジンが止まる」という、そのものずばりの警告だったのです。
ところが、私はこの通知を、ついつい忘れて修理に出さないでいました。一度ならまだしも、再三にわたって通知が来たにもかかわらず、特に不都合を感じていなかったので、またもや忘れてしまっていたのです。
「まだ動いているから、大丈夫だろう」
この油断が、後で自分の首を絞めることになるとは、このときは思ってもいませんでした。
一番暑い日の夕方、突然エンジンがかからない
その日は、8月の中でもおそらく一番暑いと思われる日でした。
夕方、私は娘を学校に迎えに行き、無事に家までたどり着きました。ここまでは、車は何ともありませんでした。
ところが、その10分後です。今度は娘をプールに送ろうと、再びエンジンをかけようとしたところ、なぜかエンジンがかからないのです。
メーターのところにあるランプは、全部ついています。ランプがついているということは、電気は来ている。だから、バッテリー上がりではないな、と私は考えました。
「もしや、あのリコールが原因か?」
頭の中で、いろいろな原因を必死に探り始めました。しかし、プールの始まる時間はどんどん迫ってきます。あれこれ考えている余裕はありませんでした。仕方なく、そのときは代わりの車を使って、なんとかその場をしのいだのです。
ここで学んだ教訓が一つあります。エンジンがかからないとき、ランプがついているかどうかは、原因を見分ける最初のヒントになるということです。ランプもつかないなら、バッテリーや電気系統の可能性が高い。ランプはつくのにエンジンだけかからないなら、別の原因を疑う必要があります。この見分け方は、覚えておいて損はありません。
原因は「リコール」ではなく「経年劣化」だった
私はすぐに、リコールを出しているメーカーのディーラー(販売店)に電話をかけました。
ところが、間の悪いことに、その日は2連休。2日後にやっと連絡がつき、なんとかその次の日に修理をしてもらうことになりました。
ディーラーの担当者に、エンジンが止まる状況をくわしく話したところ、意外な答えが返ってきました。
「それは、リコールとは無関係ですね」
なんと、あれほど気にしていたリコールは、今回のトラブルとは関係なかったのです。
では、本当の原因は何だったのか。それは、エンジンの温度が上がったときに反応するセンサーの誤作動でした。センサーとは、温度などを感じ取る部品のことです。この部品が、エンジンが熱くなると誤った信号を出してしまい、その結果エンジンが止まる、というわけです。
つまり、結論はこうです。あまり距離を走っていない車であっても、14年という長い年月が経って古くなったために、部品にガタが来ていたのです。
車というのは、走った距離だけでなく、年月そのものによっても古くなるのですね。ゴムやプラスチック、金属の部品は、使っていなくても時間とともに劣化していきます。これは、どんなに大切に乗っていても避けられない、車の宿命なのです。
車のトラブルが続くと精神的にきつい
さて、原因はわかりました。しかし、ここからが本当の試練の始まりでした。
部品が届くまで1週間、恐る恐るの運転
修理をお願いしたものの、必要な部品を注文したら、届くまでに1週間かかると言われてしまいました。
つまり、その1週間は、いつエンジンが止まってもおかしくない車に、乗り続けなければならないということです。
そこで私は、エンジンがいつ止まっても対処できるように、車の通りが少ない道路を選び、なるべく左側を走るようになりました。もし止まっても、すぐに路肩に寄せられるようにするためです。まさに、恐る恐る車を動かす羽目になったのです。
この1週間は、本当に長く感じました。ハンドルを握るたびに「頼むから止まらないでくれ」と祈るような気持ち。車の運転が、こんなに緊張するものだとは思いませんでした。
なぜ精神的にこたえるのか
車のトラブルが続くと、なぜこれほど精神的にきついのでしょうか。
それは、「いつ起こるかわからない」という不安が、常に心にのしかかるからです。
いつ止まるかわからない。どこで止まるかわからない。止まったら、周りに迷惑をかけるかもしれない。事故につながるかもしれない。こうした「先の見えない不安」は、はっきりした痛みよりも、じわじわと心を疲れさせます。
そして、私の嫌な予感は、修理の日を待たずに、最悪の形で的中してしまうことになります。
ついに街中でエンジン停止!そのとき私がとった対処法
ここからは、実際に街中でエンジンが止まったときの、リアルな対処の記録です。この体験こそ、この記事で一番お伝えしたい「対処法」の核心です。
長い上り坂の直後、街中で完全にストップ
その衝撃は、修理する前に、突然やってきました。
やはり、暑い日はエンジンの温度が上がりやすいようです。その日も、娘をプールの特訓に連れて行った、その帰り道でした。
車を動かして20分後。地元の街中を走っている最中に、エンジンが停止し、まったく動かなくなってしまったのです。
ここで、不幸中の幸いがありました。止まる少し前に、長い上り坂があったのです。もし、あの上り坂の途中で止まっていたら、後続車をせき止めてしまい、大変なことになっていたでしょう。坂を登りきった後で止まってくれて、本当に良かったと、心から思いました。
私は、何とか車を左に寄せて止めました。しかし、エンジンは全くかからない状態です。
事前に聞いていた対処法が命綱になった
ここで、私を救ったのは、事前にディーラーから聞いていた情報でした。
修理の予約をしたとき、担当者からこう教えられていたのです。
「エンジンの温度が上がれば、信号待ちでも止まることがありますよ」
「もしそうなったら、エンジンの温度が冷えるまで、20分くらい待てば、また動くようになります」
この情報を知っていたおかげで、私は慌てることなく対応できました。「ああ、これがディーラーの言っていた状態だな」と、原因がすぐにわかったからです。
これは、とても大切な教訓です。トラブルが起こる前に、「もし起きたらどうなるか」「どう対処すればいいか」を知っておくだけで、いざというときの落ち着きがまるで違うのです。
もし何も知らなければ、私はパニックになって、何度もエンジンをかけ直して、かえってバッテリーを弱らせていたかもしれません。あるいは、原因もわからず、途方に暮れていたでしょう。知識は、こういうときの心の支えになります。
エンストしたときの基本の対処手順
ここで、私の体験をもとに、走行中にエンジンが止まってしまったときの基本的な対処の手順を整理しておきます。いざというときのために、頭に入れておいてください。
まず、あわてずに、車を安全な場所に寄せることです。エンジンが止まっても、しばらくはハンドルもブレーキも効きます(ただし、いつもより重くなります)。落ち着いて、道路の左端や路肩など、安全な場所に車を移動させましょう。
次に、ハザードランプをつけることです。ハザードランプとは、左右のウインカーが同時に点滅する、あの非常点滅灯のことです。これをつけることで、「私の車は今トラブルで止まっています」と、周りの車に知らせることができます。追突を防ぐ、大切な合図です。
そして、後続車に注意しながら、必要なら停止表示板を置くことです。特に見通しの悪い場所や交通量の多い場所では、三角形の停止表示板を車の後ろに置くと、より安全です。
私の場合は、原因が「エンジンの熱」だとわかっていたので、あとはひたすら「冷えるのを待つ」という対処をとりました。
人間の脳は非常事態がおこるとフル活動する
さて、車を路肩に止めて、ひと安心……とはいきませんでした。問題は、ここからだったのです。
家までの2つの上り坂をどう越えるか
私の家にたどり着くまでには、長い長い上り坂が2ヶ所もあります。
上り坂は、エンジンに大きな負担がかかります。ただでさえ熱で止まりやすくなっているのに、坂道でまた止まってしまったら、目も当てられません。
「どうやって家まで帰るか」
私は、路肩に止まった車の中で、頭の中を必死に整理しました。不思議なもので、人間の脳は、こういう非常事態になると、普段以上にフル回転するようです。私が考えた作戦は、次のようなものでした。
一つ目は、まず大事を取って、1時間エンジンを止めて、しっかり冷やす。二つ目は、上り坂の手前で、再び1時間エンジンを止めて、もう一度冷やす。三つ目は、エンジンを十分に冷やした後、一気に坂を登って、家までたどり着く。
これがベストだと考え、私は気温34度の炎天下の中、汗をかきかき、路肩でじっと、合計2時間も待っていたのです。
エンジンを冷やすために、ただひたすら待つ。傍から見れば、なんとも奇妙な光景だったと思います。でも、これが古い車と付き合う、現実の姿なのです。
想定外の伏兵は「バリウムの下剤」だった
ここまでは、まだ「想定内」でした。ところが、この日には、とんでもない「想定外」が待っていたのです。
実はその日の早朝、私は胃がん検診を受けていて、バリウムを飲んでいました。
胃の検査でバリウムを飲んだ経験のある方ならわかると思いますが、バリウムは体の中で固まってしまうと大変なので、後で下剤を飲んで、しっかり出し切る必要があります。私も、下剤を飲んでいました。
娘を送る前に、一度お通じは済ませておきました。しかし、下剤が効いている以上、次にいつ「その時」が来るかは、まったく予想がつきません。
「よりによって、こんな日に、こんなことになるなんて。ついてない!」
炎天下の路肩で、エンジンが冷えるのを待ちながら、いつ来るかわからない腹痛におびえる。想像してみてください。この、いたたまれない状況を。
結局、2時間待つ間に、腹痛は3回もやってきました。もう、冷や汗と脂汗が止まりません。トイレは近くにない。車は動かない。私は必死にお腹に力を込めて、なんとか耐え抜きました。あのときの2時間は、人生で一番長い2時間だったかもしれません。

作戦成功、なんとか帰宅
さんざんな目に遭いながらも、私が立てた作戦は、見事に功を奏しました。
十分にエンジンを冷やし、腹痛の合間をぬって、2つの上り坂を一気に越え、どうにかこうにか、家にたどり着くことができたのです。
家の駐車場に車を止めたときの、あの安堵感といったらありませんでした。本当に、散々な一日でした。
この体験から学んだ「新しい視点」
この苦い経験は、私にいくつかの大切な気づきを与えてくれました。ただの失敗談で終わらせず、そこから学んだことを共有したいと思います。
古い車は「いつ止まってもおかしくない」前提で付き合う
その後、無事に部品が届き、交換してもらいました。それ以来、車が止まることはなくなり、今は安心して乗っています。
しかし、この一件で、私ははっきりと悟りました。やっぱり、車は古くなると、安心できなくなるのだ、と。
14年という年月は、車にとっては相当なものです。あちこちの部品が、いつ寿命を迎えてもおかしくない。今回はセンサーでしたが、次はどこが壊れるかわかりません。古い車に乗るということは、そういうリスクと隣り合わせなのだ、と身をもって学びました。
周りの「冷たい視線」というもう一つの痛み
そしてもう一つ、心に刺さったことがあります。
エンジンがストップして路肩に停止している間、私は、通り過ぎる人たちの冷たい視線を、ことごとく感じていました。
「あの車、何やってるんだ」
「邪魔だなあ」
実際にそう言われたわけではありません。でも、そう見られているような気がして、いたたまれない気持ちになりました。車が止まるということは、自分が困るだけでなく、周りの人にも迷惑をかけ、白い目で見られることでもある。この精神的な痛みは、想像以上にこたえるものでした。
そして、新車を買う決心をした
これらの経験を経て、私は一つの決心をしました。
次に車を買うときは、中古ではなく、新車にしよう、と。
もちろん、新車は高い買い物です。中古車のほうが安く済むのは、よくわかっています。しかし、あの炎天下の2時間と、周りの冷たい視線、そして何より「いつ止まるか」という日々の不安を思えば、新車で得られる「安心」には、それだけの価値があると感じたのです。
安心してハンドルを握れること。急な仕事にもすぐ対応できること。家族を安全に乗せられること。お金には換えがたいものがある、と気づかされました。
あなたの車は大丈夫?今すぐ考えておきたい備え
最後に、この記事を読んでくださっているあなたに、問いかけたいことがあります。
あなたの車は、大丈夫ですか。古くはないですか。
街中で止まっても、他人に迷惑をかけない自信はありますか。もし坂道で止まったら、どうしますか。もし高速道路で止まったら、どう対処しますか。整備不良が原因で、事故を起こしてしまったら……。
こうした「もしも」は、決して他人事ではありません。私も、「自分は大丈夫」と思っていた一人でした。
日ごろからできる、3つの備え
そこで、私の失敗をふまえて、日ごろからできる備えを3つ、お伝えします。
一つ目は、リコールや点検の通知を、絶対に放置しないことです。私のように「まだ動くから」と後回しにしていると、いざというときに泣きを見ます。リコールの修理は無料ですし、面倒でも早めに対応するのが、結局は一番の得策です。
二つ目は、定期的な点検・整備を欠かさないことです。車検のときだけでなく、日ごろから信頼できる整備工場やディーラーに車を見てもらいましょう。プロの目で見れば、大きなトラブルになる前に、部品の劣化に気づいてもらえることがあります。特に、10年を超えた車は、より念入りな点検をおすすめします。
三つ目は、もしものときの連絡先と対処法を、あらかじめ知っておくことです。加入している自動車保険にロードサービスがついているか、JAFなどの会員になっているか、確認しておきましょう。そして、車の中に、停止表示板や、夏場なら水分などを備えておくと安心です。私のように、事前に対処法を聞いておくだけでも、いざというときの落ち着きが全く違います。
「もしも」を想像しておくことが、あなたを守る
一番大切なのは、トラブルが起こる前に、「もし想定されることが起きたら、どうすればいいか」を、一度でいいので考えておくことです。
その時になって慌てないために、事前に頭の中でシミュレーションしておく。ただそれだけで、あなたと、あなたの大切な家族を守ることにつながります。
私の情けない体験談が、あなたの「備えよう」というきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。あの炎天下の2時間を、あなたには味わってほしくないのです。
どうか、あなたの車と、安全なカーライフを、今一度見直してみてください。