岩手で暮らす58歳ズボラ庭師があと20年生き抜くために体の不調と闘いながらも日々を送る物語

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シカが岩手の街中でも急増中!庭に忍び寄る被害拡大の原因と対策

シカが岩手の街中でも急増中!庭に忍び寄る被害拡大の原因と対策

丹精込めて育てた庭木の若葉が、朝起きたら食べ尽くされていた。

もし、あなたがそんな経験をしたことがあるなら、犯人はシカかもしれません。

私は岩手で庭師をしている者です。近年、仕事で山あいのお宅を訪れると、「シカに庭の木を食べられて困っている」という相談が、本当に増えました。かつては山の中でしか見なかったシカが、今では平気で人里まで下りてきて、庭の植物を食い荒らしていくのです。ひどいときには、街の中に現れて、横断歩道を渡っていくシカの姿を見かけることさえあります。

「どうして、こんなにシカが増えたのだろう?」

そう疑問に思う方は多いはずです。でも、この問題を「シカが悪い」と片付けてしまうのは、少し違うのです。実は、シカが人里に下りてくる背景には、私たち人間が深く関わった、山の大きな変化が隠されています。

この記事では、シカが増えた本当の原因、庭を守るための対策、そしてシカの生態や、森林や自然全体への影響まで、庭師の視点も交えながら、わかりやすくお話ししていきます。読み終わるころには、シカ問題の本当の姿が見えてくるはずです。それでは、始めましょう。

シカを追い払う対策はあるのか

まず、多くの方が一番知りたい「対策」から見ていきましょう。

結論から言うと、シカを庭に近づけない対策はいくつかありますが、どれも完璧ではなく、根気強い工夫が必要です。

シカも生きるのに必死だという視点

対策の話に入る前に、一つだけ大切なことをお伝えします。それは、シカも生きるのに必死だ、ということです。

人間から見れば、シカは庭を荒らす「悪者」に見えるかもしれません。でも、シカからすれば、命の危険を冒してまで、山を下りてきているのです。天敵に襲われるかもしれない、車にはねられるかもしれない。そんなリスクを負ってでも人里に来るのは、山に食べ物がなくなってしまったからです。

この視点を持っておくと、対策の意味も、この後お話しする「増えた原因」も、よく理解できるようになります。決して、シカを憎むための記事ではないのです。

柵・ネット・鉄板によるバリケード

さて、代表的な対策が、山と人の住む場所の境界に、柵やネット、鉄板などで「バリケード」を作る方法です。

シカが物理的に入ってこられないように、壁を作ってしまうわけです。これには、ある程度の効果が期待できます。

ただし、弱点もあります。柵の一部が壊れたり、すき間ができたりすると、シカはそこを見つけて侵入してきます。シカは意外と賢く、力も強いので、一度壊れた場所からまた入ってきてしまうのです。ですから、バリケードは作って終わりではなく、こまめに点検して、壊れたらすぐ直すという、地道な管理が欠かせません。家庭の庭であれば、背の高い柵やシカ用の防護ネットで囲うのが基本の対策になります。シカは高くジャンプするので、柵は最低でも2メートルほしいところです。

こんな3mくらいある石垣でも簡単に昇ってきます。
シカが昇れる石垣

数を調整するための駆除

もう一つの対策が、増えすぎたシカの数を調整するための「駆除」です。

これは、狩猟や有害鳥獣捕獲という形で行われます。駆除されたシカは、「ジビエ」として食用に活用されたり、狩猟をした人が食べたりすることが多いようです。近年は、シカ肉をペットフードに加工する取り組みなども進んでいます。命をむだにせず、活かす工夫がなされているのです。

こうした対策が必要になるほど、シカの数は増え、被害は深刻になっています。では、なぜここまで増えたのでしょうか。次で、その根本原因に迫ります。

なぜシカは増えたのか?本当の原因は山にあった

ここが、この記事で最も伝えたい部分です。

結論として、シカが増えたように見える本当の原因は、シカのせいではなく、「山の環境が大きく変わってしまった」ことにあります。

山が老いて、シカの食べ物がなくなった

一つ目の原因は、山の「老齢化」です。少し詳しく説明します。

昔、人は山にたくさんの木を植えました。その木が、長い年月をかけて、大きな大木に育ちました。ここまではよいのですが、問題はその後です。

木が大きく育って、山にびっしりと茂ると、その足元まで太陽の光が届かなくなります。すると、地面に近い場所で育つはずの低い木や、若い木(幼木)が、光不足で育たなくなってしまうのです。

シカが主に食べるのは、この低い場所にある若葉や草です。ところが、その食べ物が、山から消えてしまった。つまり、山にシカの食べ物と、住む場所がなくなってしまったのです。だから、シカは食べ物を求めて、人里に下りてくるしかなくなったのです。

人が山に手を入れなくなった

では、なぜ山の木は、そんなに茂りっぱなしになってしまったのでしょうか。

それは、昔ほど人が山の手入れをしなくなったからです。

かつて人々は、山の木を切って木材にしたり、薪(まき)として燃料に使ったりしていました。木を適度に切り、間引くことで、山には自然と空間ができ、光が差し込み、若い木や草が育つ環境が保たれていたのです。

ところが、今は薪を使う家庭も減り、木を切り出すことも少なくなりました。その結果、人が植えた木は切られることなく、大木になって密集し、山は暗く、食べ物の少ない場所になってしまったのです。

わかりやすくたとえるなら、庭の手入れと同じです。庭木も、剪定して風通しや日当たりをよくしないと、足元の草花が育ちません。山も、手入れをしないと、同じことが起きるのです。庭師として、これはとてもよくわかる話です。

狩猟をする人が減った

もう一つの原因が、狩猟をする人(ハンター)の減少です。

昔は、狩猟によって、シカの数がある程度自然に調整されていました。ところが、狩猟をする人が高齢化し、その数も大きく減ってしまいました。実際、狩猟免許を持つ人は、この40年ほどで大きく減少し、そのうえ高齢の方の割合がとても高くなっています。

数を調整する人が減れば、シカの数は増えやすくなります。これも、シカが増えた大きな理由の一つと言われています。

つまり、シカが増えたのは、シカが悪いのではなく、山の環境の変化と、人と山との関わり方の変化が招いた結果なのです。問題の本質は、山の生態系そのものが変わりつつあることにあるのです。

知っておきたいシカの生態

ここで少し、シカという動物そのものについて知っておきましょう。相手を知ることは、対策を考えるうえでも役立ちます。

結論として、シカは草食で温厚な動物ですが、その生態を知っておくと、被害の理由や対処法が見えてきます。

シカは何を食べるのか

シカは草食動物です。主に、草、木の若葉、若い芽、どんぐりなどの木の実を食べます。庭で被害に遭いやすいのは、やわらかい新芽や若葉、そして花や野菜です。

そして、後で詳しくお話ししますが、これらの食べ物がなくなると、シカは木の樹皮(幹の皮)まで食べるようになります。これが、森林に大きな問題を引き起こすのです。

シカの糞や寿命について

シカがいるかどうかを見分けるヒントの一つが、「糞(ふん)」です。シカの糞は、黒くて小さな俵型、あるいは丸っこい粒状で、コロコロとたくさん落ちているのが特徴です。ヤギの糞に似ています。庭にこうした糞が落ちていたら、シカが来ているサインかもしれません。

シカかカモシカのフン(どちらも生息)
シカのフン

シカの寿命は、野生ではおよそ10年から15年ほどと言われています。動物園などの安全な環境では、もっと長生きすることもあります。メスは1年に1頭ほどの子どもを産み、繁殖力があるため、条件がそろうと数が増えやすいのです。

シカの攻撃性や病気について

「シカは襲ってこないの?」と心配される方もいるでしょう。基本的に、シカはおとなしく、臆病な動物で、人を見ると逃げていくことがほとんどです。

ただし、注意も必要です。オスジカは、秋の繁殖期になると気が荒くなり、立派な角で攻撃してくることがあります。また、母ジカが子どもを守ろうとするときも、警戒します。むやみに近づいたり、追い詰めたりするのは避けましょう。特に角のあるオスには近づかないのが賢明です。

病気の面では、シカはマダニを運ぶことがあり、そのマダニが人にうつす感染症が問題になることもあります。もし弱ったシカや死んだシカを見つけても、素手で触らないようにしてください。もし触れて体調に不安があれば、内科などの医療機関に相談するとよいでしょう。

シカとキョンの違い

近年、「キョン」という動物も話題になっています。シカとキョンは、どう違うのでしょうか。

キョンも、シカの仲間(シカ科)ですが、体がずっと小さく、犬くらいのサイズです。もともと日本にいなかった外来種で、千葉県や伊豆大島などで野生化して増え、問題になっています。ニホンジカは体が大きく角も立派ですが、キョンは小型で、オスに短い角があります。鳴き声が犬の遠吠えのようで、独特です。どちらも植物を食べる被害を出す点は共通しています。

シカによる森林や生態系への深刻な影響

シカの被害は、庭の植木だけにとどまりません。実は、山全体、そして自然環境そのものに、深刻な影響を及ぼしているのです。

結論として、シカの食害は、木を枯らし、最悪の場合、土砂崩れなどの災害につながる恐れさえある、重大な問題です。

樹皮を食べられると木は枯れる

先ほど触れたように、食べる葉がなくなると、シカは木の樹皮を食べ始めます。これが、大きな問題を引き起こします。

木の幹の皮のすぐ内側には、「形成層(けいせいそう)」という、木が生きるうえでとても大切な部分があります。ここは、木が水分や養分を運ぶ、いわば「血管」のような役割をしています。

シカが幹の樹皮をぐるりと一周、まるはぎにしてしまうと、この形成層が壊れてしまいます。すると、水や養分が通れなくなり、木は枯れてしまうのです。人間でいえば、体中に血が回らなくなるようなもの。これでは、木は生きていけません。

樹皮を食べて木を枯らすことがあるシカ

木が枯れると土砂崩れにつながる恐れ

木がたくさん枯れると、どうなるでしょうか。

木の根は、土をしっかりとつかんで、山の斜面が崩れるのを防ぐ役割をしています。ところが、木が枯れると、その根も腐っていきます。土を支えるものがなくなり、大雨などのときに、土砂崩れ(土砂崩落)が起きやすくなってしまうのです。

「シカが自然災害を引き起こすなんて」と思うかもしれません。でも、シカが山の木を大量に枯らせば、それが巡り巡って、災害の引き金になる可能性は、決してゼロではないのです。

実際にどれくらい増えているのか

では、シカは実際にどれくらい増えているのでしょうか。環境省の推定によると、本州以南のニホンジカの数は、2015年度末の時点で、中央値でおよそ304万頭と推定されていました。

国は「10年でシカとイノシシの数を半分にする」という目標を立てて、駆除を強化してきました。その効果もあって、近年は減少傾向が見られた時期もあります。しかし、2023年度末の時点でも、ニホンジカはおよそ303万頭と、依然として非常に高い水準にあり、目標の達成は難しい状況が続いています。それだけ、シカの数を減らすのは大変なことなのです。

もちろん、この数のシカが一か所に集まっているわけではありません。しかし、シカが多く生息する地域では、山全体の木を枯らすほどの被害が出ることもあり、その場合は土砂崩れの危険も高まります。シカの食害による森林被害は、獣による森林被害全体の大部分を占めているというデータもあり、事態は深刻です。

庭師として困る、意外な被害

余談ですが、庭師や農家の間では、シカによる意外な被害も知られています。それは、軽トラックの荷台の傷です。

シカが車道に飛び出してぶつかったり、駐車中の車に近づいたりして、荷台や車体に傷やへこみができることがあるのです。山あいで仕事をする者にとっては、庭木だけでなく、こうした思わぬ被害も頭の痛い問題です。それだけ、シカが私たちの生活圏に入り込んできている、ということの表れでもあります。

まとめ:シカと人が共存するために

ここまで、シカの急増と被害について、原因から対策、生態、そして森林への影響まで、たっぷりお話ししてきました。最後に、大切なことを振り返ります。

シカが人里に下りて庭を荒らすのは、シカが悪いからではありません。山が老齢化し、人が山に手を入れなくなり、シカの食べ物と住む場所が失われてしまったこと。そして、狩猟をする人が減ったこと。こうした「人と山との関わりの変化」が、根本の原因なのです。

対策としては、柵やネットでのバリケード、数を調整する駆除などがありますが、どれも根気強い管理が必要です。そして、シカの食害は、庭木だけでなく、樹皮をはいで木を枯らし、土砂崩れの危険まで招く、山全体の深刻な問題につながっています。

大切なのは、シカを一方的な悪者にするのではなく、「なぜこうなったのか」という本当の原因に目を向けることです。山を適切に手入れし、生態系のバランスを取り戻していくこと。それこそが、シカと人が共存していくための、遠回りに見えて一番の近道なのだと、私は思います。

もし、あなたの庭がシカの被害に遭っているなら、まずは柵やネットで庭を守る対策から始めてみてください。そして、この問題の背景に、山と自然の大きな変化があることを、心のどこかに留めておいてもらえたらうれしいです。

シカも、私たちと同じ、この自然の中で生きる仲間です。困った存在ではありますが、その命の営みに思いをはせながら、上手に付き合う道を探していきたいものですね。

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