岩手で暮らす58歳ズボラ庭師があと20年生き抜くために体の不調と闘いながらも日々を送る物語

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ナラの大木が根元から倒木!突然起こったその原因はなに?

ナラの大木が根元から倒木!突然起こったその原因はなに?

樹齢100年のナラが突然倒れた、その衝撃

長野県で、ナラの大木が倒れて女性が下敷きになり、亡くなってしまったというニュースが飛び込んできました。

倒れたナラの木は、高さがなんと20メートル、幹の直径は約1メートル、樹齢はおよそ100年ほどだったといいます。

私は普段、庭師としてお客様の庭木や近隣の里山の木を扱っていますが、直径1メートルの木というのは、チェーンソーで切ろうとしても刃がなかなか入らず、何度も切り込みを変えながら作業しなければならないほどの太さです。それだけ立派な木が、まるで何かに力を抜かれたようにあっけなく倒れてしまう。この事故のニュースを見たとき、正直に言うと背筋が寒くなりました。

自然の力というのは本当に容赦がありません。しかし今回の倒木は、台風や地震のような天災ではなく、目に見えないほど小さな虫が関係していたことがわかっています。今日は、この事故の背景にある「ナラ枯れ」という現象と、その正体である「カシノナガキクイムシ」について、庭師の立場からできるだけわかりやすくお伝えしていきます。

山が赤くなる「ナラ枯れ」を見たことはありませんか

夏なのに、山の一部分だけが紅葉したように赤茶色になっている光景を見たことはないでしょうか。

私も岩手県内の現場を回っていて、夏場に山の斜面がまだらに赤くなっているのを何度も目にしてきました。最初にそれを見たときは「病気かな」「水不足かな」と思ったのですが、近づいてみると木の幹に無数の小さな穴が開いていて、木くずのようなものが根元にこんもりと積もっているのに気づきました。これが、いわゆる「ナラ枯れ」と呼ばれる現象の典型的なサインです。

ナラ枯れ

このナラ枯れは、今回長野県で倒木事故を起こした木にも起きていたとみられています。木が枯れてもすぐには倒れず、内部が腐って弱くなったところに強い風が吹いたり、雪が積もったりすることで、ある日突然バランスを崩して倒れてしまうのです。立ち入り禁止の措置がとられていたにもかかわらず事故が起きてしまったという点も、枯れた木の危険性がどれほど見た目だけでは判断しづらいかを物語っています。

読者の皆さんの中にも、自宅の庭や近所の里山で「最近あの木、元気がないな」と感じている方がいらっしゃるかもしれません。もしそう感じたことがあるなら、それはナラ枯れのサインかもしれず、決して他人事ではありません。

カシノナガキクイムシとは、いったいどんな虫なのか

ナラ枯れの正体は、「カシノナガキクイムシ」という体長5ミリほどの小さな昆虫です。略して「カシナガ」と呼ばれることもあります。

学名はPlatypus quercivorusといい、コウチュウ目・ナガキクイムシ科に分類される昆虫です。分類上はカミキリムシとは全く別のグループで、見た目もカミキリムシのように立派な触角は持たず、細長い円筒形の体をしています。体長は成虫でだいたい4.5ミリから5ミリほどしかなく、肉眼ではなかなか気づきにくい大きさです。

この虫は、実は日本にもともと生息していた在来種です。海外から持ち込まれた外来種ではなく、昔から日本の森林に住んでいた虫なのです。ただし、近年になってなぜか各地で大発生し、被害が急激に広がっているという点が大きな問題になっています。

カシノナガキクイムシは、ナラの木を直接かじって倒すわけではありません。この虫が本当に恐ろしいのは、体に「病原菌」を運んでいるという点です。

木を枯らす真犯人は「ナラ菌」という病原菌

カシノナガキクイムシの体には、「ラファエレア・クエルキボーラ菌」、通称「ナラ菌」と呼ばれる病原菌が付着しています。この虫は、木の幹に自分の体を使って小さな穴を開け、その中に潜り込んで巣を作るのですが、その際にナラ菌を木の内部に持ち込んでしまうのです。

木の内部に入り込んだナラ菌は急速に繁殖し、木が水を吸い上げるための通り道である「道管」を塞いでしまいます。人間で例えるなら、血管が詰まってしまうようなものです。水分を吸い上げられなくなった木は、真夏だというのに葉っぱが真っ赤に枯れてしまい、やがて木全体が枯死してしまいます。

面白いのは、カシノナガキクイムシ自身もこのナラ菌をエサにして生きているという点です。幼虫は、親虫が坑道の壁に育てたナラ菌を食べて成長します。このように、菌を栽培しながら生活する性質から、カシノナガキクイムシは「養菌性キクイムシ」とも呼ばれています。虫の体には「菌嚢(きんのう)」と呼ばれる、菌を運ぶための特別な器官が備わっていて、ここにナラ菌の胞子を入れて次の木へと運んでいくのです。

似たような仕組みで木を枯らす虫に「マツクイムシ」がいますが、マツクイムシの場合は「マツノザイセンチュウ」という線虫が原因で松が枯れます。一方、カシノナガキクイムシの場合は線虫ではなく菌が原因で、ナラ類やカシ、シイといった広葉樹に被害を与えるという違いがあります。

被害を受けやすい木の種類と見分け方

カシノナガキクイムシが好んで穿孔(せんこう。穴を開けること)する樹種は、コナラ、ミズナラ、クヌギ、シラカシなど、いわゆるどんぐりのなる木、ブナ科の広葉樹が中心です。

コナラ

ミズナラ

クヌギ

地域によってはブナそのものにも被害が及ぶことがあります。桜の木に穴が開いているのを見て心配される方もいますが、桜はカシノナガキクイムシが本来好む樹種ではないため、桜の穴あきについては別の害虫の可能性が高いです。

被害を受けた木を見分けるいちばんわかりやすい特徴は、「フラス」と呼ばれる木くずです。フラスは、虫が木に穴を開けた際に排出する木くずと虫の糞が混ざったもので、木の根元にうどん粉のようにこんもりと積もります。私が現場で見た木も、まさに根元一面が茶色い粉だらけになっていて、幹には目打ちで開けたような小さな穴が無数にあいていました。このフラスが確認できたら、その木はすでにカシノナガキクイムシに侵入されている可能性が高いと考えてよいでしょう。

もうひとつのサインが、夏場の急激な葉の変色です。梅雨明けごろから8月にかけて、木全体の葉が一気に赤茶色になり、まるで紅葉したように見えます。これは寿命による自然な紅葉ではなく、水分不足による「急性萎凋(いちょう)」と呼ばれる症状で、ナラ枯れ特有の見た目です。

虫が呼び合う「集合フェロモン」と一斉攻撃のしくみ

なぜ一本の木にこれほど多くの虫が集まってくるのか、不思議に思う方も多いと思います。実はカシノナガキクイムシには、仲間を呼び寄せる「集合フェロモン」という化学物質を出す性質があります。

最初にオスの成虫が弱った木を見つけて穿孔すると、そこから集合フェロモンが発散され、周囲にいる仲間のカシノナガキクイムシが次々と同じ木に集まってきます。こうして一本の木に数百から数万匹という単位で虫が殺到する現象を「マスアタック」と呼びます。これほど大量の虫に一斉に穴を開けられると、健全だった木でも一気に弱ってしまい、ナラ菌の繁殖と相まって枯死へと向かってしまうのです。

カシノナガキクイムシの一年間の暮らしと寿命

この虫の生活史は、季節に沿ったはっきりとしたサイクルを持っています。

6月から8月ごろにかけて、成虫が羽化して健全なナラ類の木に飛来し、幹に穴を開けて住み着きます。この時期が最も活動が活発な時期で、集合フェロモンによるマスアタックもこの時期に集中して起こります。

8月から9月にかけては、木の内部でナラ菌が繁殖し、水分の通り道が詰まることで木が急激に枯れていきます。同時にメスは坑道の中に卵を産みつけます。

そして10月から翌年の6月ごろまでは、幼虫が枯れた木の中でナラ菌をエサにしながら成長し、そのまま木の中で越冬します。翌年の初夏に成虫になり、再び新しい健全な木を探して飛び立っていく、というサイクルを毎年繰り返しています。

成虫としての寿命そのものは長くありませんが、幼虫として木の中で過ごす期間を含めると、一世代でおよそ1年かけて命をつないでいることになります。また、成虫の移動距離は数百メートルから、条件が良ければ数キロメートルに及ぶこともあるとされ、これが被害エリアが年々広がっていく一因にもなっています。

なぜ近年、これほど大発生してしまったのか

カシノナガキクイムシ自体は昔から日本にいた在来種の虫ですが、ここ数十年で被害が急増しているのには理由があります。

大きな要因のひとつが、里山の管理放棄です。昔は薪や炭として定期的に伐採されていたナラやクヌギの木々ですが、燃料が石油やガスに切り替わったことで伐採されなくなり、木がどんどん太く、高齢化していきました。実は、太くて古い木ほどカシノナガキクイムシに好まれる傾向があります。若い木は樹皮が薄く水分の圧力も高いため、虫が入り込んでも「ヤニ」のような樹液で虫を追い出す抵抗力があるのですが、高齢化した太い木は、この抵抗力が弱まってしまっているのです。

加えて、温暖化による気温上昇も虫の活動時期を長引かせ、世代交代のサイクルを早める一因になっていると考えられています。人里に近い里山ほど管理が行き届かなくなり、結果として被害が拡大しているというのが実情です。

天敵はいるのか、自然に任せて大丈夫なのか

カシノナガキクイムシにも、キツツキの仲間や一部の寄生バチ、捕食性の昆虫といった天敵は存在します。実際、被害木の樹皮をキツツキがつついて幼虫を捕食している様子が観察されることもあります。

ただし、天敵の力だけで被害の拡大を食い止めるのは非常に難しいのが現実です。マスアタックによって一本の木に数万匹規模の虫が集中する繁殖力の強さの前では、天敵による捕食はあくまで限定的な効果にとどまります。したがって、人の手による対策が欠かせません。

今すぐできる対策と防除の方法

ここからは、実際にどのような対策があるのかをご紹介します。すでに枯れてしまった木への対応と、まだ枯れていない木を守るための予防、この2つに分けて考えると整理しやすいです。

枯れてしまった被害木への対応としては、伐採して処分する方法が基本になります。ポイントは時期で、幼虫が木の中で越冬している11月ごろから、翌年に成虫が羽化して飛び立つ前の5月ごろまでに処理するのが効果的とされています。この時期を逃して夏場に伐採してしまうと、切った木の中からすでに成虫が飛び立ってしまっている可能性があり、被害を広げてしまうことにもなりかねません。伐採した木は、そのまま放置せずビニールシートで覆って燻蒸処理をしたり、粉砕してチップ化したりすることで、中の幼虫ごと処分するのが確実です。

まだ枯れていない木を守る予防的な対策としては、殺虫剤や薬剤を用いる方法があります。幹に薬剤を散布して虫の侵入を防ぐ方法や、木の内部に薬剤を注入する「樹幹注入」という手法も広く使われています。樹幹注入は、木にドリルで小さな穴を開けて薬剤を直接注入し、木自身の水を吸い上げる力を利用して薬剤を全体に行き渡らせる方法で、農薬としての登録がある専用の薬剤が使われます。個人でも入手できる薬剤はありますが、大きな木や大切な庭木の場合は、専門の業者に相談することをおすすめします。

コナラ

また、虫を誘引して捕獲する「トラップ」を使った駆除方法もあります。集合フェロモンの性質を利用し、フェロモン剤を仕込んだ市販のトラップを木の幹に設置して虫を誘い込み、捕獲する方法です。手軽な方法として、ペットボトルを使った自作トラップも紹介されることがあります。ペットボトルの側面に虫が入れる程度の穴を開け、中に誘引剤を入れて木に吊るしておくというもので、庭木など被害範囲が限られている場合には試してみる価値があります。ただし、広い里山全体の被害を食い止めるほどの効果は期待できず、あくまで補助的な手段と考えたほうがよいでしょう。

林野庁でも、ナラ枯れ被害の実態調査や防除に関するガイドラインを公開しており、各都道府県の森林担当部署でも被害木の伐採や薬剤散布への補助制度を設けている地域があります。広範囲の被害が疑われる場合は、個人で抱え込まずに、お住まいの自治体や森林組合に相談することも大切な選択肢のひとつです。

被害木を見つけたときに、私たちができること

私自身、庭師として現場を回る中で、フラスが積もった木を見つけたときは、まずお客様やご近所の方にその危険性をお伝えするようにしています。特に道路沿いや駐車場、住宅のそばに立っている木が被害を受けている場合、今回の長野県の事故のように、いつ倒れてもおかしくない状態になっている可能性があります。

もし皆さんの身近に、夏なのに葉が赤く枯れている木や、根元に木くずのようなフラスが積もっている木を見つけたら、まずは近づきすぎないことが大切です。そのうえで、自治体の緑化担当窓口や地域の森林組合、あるいは信頼できる庭師や造園業者に相談し、専門家の目で安全性を確認してもらうようにしてください。特に人通りの多い場所や敷地内の大木については、放置せず早めに対応することが、今回のような痛ましい事故を防ぐ一番の近道になります。

小さな虫の穿孔から始まる出来事が、最終的には人の命に関わる事故につながってしまう。今回のニュースは、私たち庭に関わる仕事をする者にとっても、決して他人事ではない重い出来事でした。身近な木の変化に少しでも早く気づき、無理をせず専門家に相談する、その一歩が大きな被害を防ぐことにつながります。

よくある質問

カシノナガキクイムシに刺されたり噛まれたりすることはありますか

カシノナガキクイムシは木を加害する虫であり、人を刺したり噛んだりする虫ではありません。素手で触れても危険性は低いですが、大量発生した際に不快に感じる方もいるため、無理に触れる必要はありません。

庭のシラカシやコナラも被害に遭いますか

はい、シラカシやコナラも被害を受けやすい樹種です。庭木として植えられているどんぐりのなる木も例外ではないため、夏場の葉の変色やフラスの有無を定期的にチェックすることをおすすめします。

殺虫剤を自分で散布すれば完全に防げますか

市販の殺虫剤や薬剤は一定の効果がありますが、大きな木や被害が広範囲に及んでいる場合、素人判断での散布だけでは防除しきれないことがあります。木の大きさや被害の程度によっては、樹幹注入など専門的な処置が必要になるため、心配な場合は専門業者に相談するのが安心です。

一度被害を受けた木は必ず枯れてしまうのですか

被害の初期段階で虫の数が少ない場合、木自身の抵抗力によって枯れずに回復することもあります。ただしマスアタックを受けて穴の数が非常に多くなった場合は、枯死する可能性が高くなります。早期発見と早期対応が、木を守れるかどうかの分かれ目になります。

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